2024年のヨーロピアンチャンピオンシップス(ユーロ)のペア競技において、デススパイラルのレベル判定が厳しかった印象を受けたので、自分用にISUのハンドブックを訳しました。
Technical Panel Handbook Pair Skating 2023/24
こちらのPDFの、27~29ページを抜粋した画像です。
ルール(Rules)
デススパイラル全般
女性が実際にデススパイラルを行っている間の最終的な姿勢では、男女ともに最低1回転実施し、男性の膝が明らかに曲がっており完全にピボットの姿勢にあること。
より高いレベルを獲得するには、男性は低いピボットの姿勢を維持しなければならない。同時に女性は、体と頭を氷に近づけクリーンなエッジで滑る必要がある。ただし、氷と頭が触れたりフリーハンドや体の他の部位で支えてはならない。
女性の体重はらせん状のエッジの力と男性のホールドによって支えられる。
男性は腕を完全に伸ばして中心の位置にいなければならない。
スケーターのホールドが少なくとも連続1回転続いた場合、いずれの種類の姿勢も特徴としてカウントされる。
ピボットフィギュア(ノービス)
男性は、追従する女性をハンドトゥハンドのグリップでホールドしピボットを行う。
女性はスパイラルでも、スプレッドイーグルでも、足を伸ばした姿勢でもよい。
ショートプログラム
デススパイラルのタイプ:
バックワードアウトサイドデススパイラル:
(=バックアウトデススパイラル=BoDs)
両パートナーがバックワードアウトサイドエッジで滑る。男性はピボットを行い、滑っている足と同じ腕を完全に伸ばして女性の手をホールドする。女性は氷に対して後方へ傾き、腕を完全に伸ばした姿勢で男性の周りを回る。男性が前述のピボットの姿勢を維持し、女性がアウトサイドエッジで男性の周りを回る限り、男性の姿勢はどのように変化してもよい。
フォワードインサイドデススパイラル:
(=フォアインデススパイラル=FiDs)
男性がバックワードアウトサイドエッジで滑り、女性がフォワードインサイドエッジで滑る。男性はピボットを行い、滑っている足と同じ腕を完全に伸ばして女性の手をホールドする。女性は氷に対して横向きに傾き、腕を完全に伸ばした姿勢で男性の周りを回る。男性が前述のピボットの姿勢を維持し、女性がインサイドエッジで男性の周りを回る限り、男性の姿勢はどのように変化してもよい。
バックワードインサイドデススパイラル:
(=バックインデススパイラル=BiDs)
バックワードアウトサイドデススパイラルと同様だが、女性が氷に対して後方もしくは前方に傾き、腕を完全に伸ばし、安定したバックワードインサイドエッジで男性の周りを回る。
フォワードアウトサイドデススパイラル:
(=フォアアウトデススパイラル=FoDs)
女性が安定したフォワードアウトサイドエッジで男性の周りを回ることを除き、フォワードインサイドデススパイラルと同様。
シニアとジュニアともに、2023-2024年シーズンのショートプログラムにはフォワードインサイドデススパイラルを組み込まなければならない。
(ショートプログラムのデススパイラルの種類は毎年規定されます。)
フリースケーティング
シニアとジュニアともに、「ウェルバランス」のフリースケーティングプログラムは1つのデススバイラルを含まなければならない。シニアでは、このデススパイラルはショートプログラムとは異なるタイプでなければいけない。腕のホールドの変化は可能。(ISUのSPECIAL REGULATIONS & TECHNICAL RULESにフリースケーティングの「ウェルバランス」について記載されています。)
レベルの特徴(Level features)
- 難しい入り方(デススパイラルの直前)および/または難しい出方
- 両パートナーが「低い」姿勢の際の女性の全回転(行われた回数を数える)
解説
姿勢
女性の「低い姿勢」:インサイドデススパイラルでは、腰の最も低い部分または臀部、および頭が自身のスケーティングをしている足の膝より高くてはならない。
アウトサイドデススパイラルでは、頭が自身のスケーティングをしている足の膝より高くてはならない。
男性の「低いピボットの姿勢」:臀部が固定されている足(ピボットの軸足)の膝より高くないこと。
前述の男性と女性の同時姿勢が1回転に満たない場合、デススパイラルのレベルは1以上にはならない。
「低い」姿勢での回転数
デススパイラルのうち、女性または男性の姿勢が上で述べられたものより高い部分は、レベルの特徴(Level features)の2には無効である。女性と男性が実際に低いデススパイラルの姿勢である時のみカウントを開始する。
「低い」姿勢の喪失
特徴2(Level featuresの2)を得るためには、両パートナーの「低い」姿勢が連続しなければならない。「低い」姿勢が失われると、特徴2(Level featuresの2)は失われる前の実施のみカウントされる。
既定の姿勢ではない女性
(全てのデススパイラルでの)女性の頭および/または(インサイドデススパイラルでの)腰の最も低い部分が滑っている足の膝より高い場合、レベルが1より高くなることはない。
デススパイラル中、女性の頭の最も低い部分が女性の滑っている側の膝の高さに一度も達しない場合、そのデススパイラルはno value(無得点)となる。
異なるデススパイラルの実施(ショートプログラム)
ショートプログラムではデススパイラルは既定として定められている。もし女性が異なるエッジまたは方向で行った場合、レベルと点数は与えられないが、ボックスはブロックされる(プロトコルのデススパイラルの枠を塞ぐ)。
女性がブーツで滑る
もし女性がエッジを損ないブーツや膝で進んだ場合、デススパイラルの終了とみなしその他の特徴は検討されない。TP(テクニカルパネル)はこれが転倒かどうかを決定しなければならない。
ピボットの姿勢ではない、男性の膝が曲がっていない、または腕が伸びきっていない
男性が全くピボットの姿勢に達しないか、1回転もこの姿勢でとどまらない場合、または氷にトウをついている足の膝が1回転しても明確には曲がっていない場合、または握っている腕が1回転しても伸びきっていない場合は、レベルは認められずデススパイラルは無得点となる。
男性が低いピボットの姿勢に達しない、または維持できない
男性が既定の低いピボットの姿勢で1回転していない場合、レベルが1より高くなることはない。
ピボットの姿勢の変更
ショートプログラムでは、バックワードアウトサイドエッジで滑り、腕を完全に伸ばして女性の手を握り、両膝を明確に曲げた完全なピボットの姿勢である、伝統的な男性のピボットポジションのみ認められる。このピボットポジションのいずれの変化も認められず、もし変化があった場合は無得点となる。
フリースケーティングでは、一度男性がピボットの姿勢を変更するとどのようなデススパイラルでも終了であるとみなされる。したがって、男性が上述の正確なピボットの姿勢である部分のみがレベル判定を得られる。
反対の手で握ること(デススパイラルの入り方)
男性が反対の手で握ることはショートプログラムでは禁止され、フリースケーティングでは認められるが、レベルの特徴としてはみなされない。女性が反対の手で握ることは、ショートプログラムとフリープログラムのどちらでも認められるが、レベルの特徴としてはみなされない。
腕のホールドの変更
SPとFSの両方において、男性および/または女性の腕のホールドの変更はいずれの瞬間でも認められるが、レベルの特徴とはならない。
誰の回転を数えるのか?
特徴2では女性の回転のみ数えられる。デススパイラル中、女性が男性に遅れて通過する場合、男性が低い姿勢で全回転した数は女性より少なくなる可能性がある。これにはホールドの変更が必要となる。
いつデススパイラルが始まるか?
一方のパートナーがデススパイラルのエッジで片足になり、もう一方のパートナーも片足になるかスプレッドイーグルやシュートザダック(フリーレッグを前に伸ばしてしゃがんだ姿勢)などの姿勢になった時、エントリーカーブの始点からエントリーが開始する。
イグジットはいつ開始し終了するか?
デススパイラルからのイグジット(出方、デススパイラルの終わり)は男性が”ホールドしている”腕を肘で曲げ始めたときに開始し、女性が垂直の姿勢になったときに終了する。
デススパイラルの回転はいつ開始し終了するか?
男性のピボットのトウが氷上で静止した(固定された)ときに開始する。男性のピボットが終了したときか、女性がデススパイラルのイグジットのために起き上がり始めたときに終了する。どちらが先かによって結果が決まる。
難しいエントリー、イグジット
スケーターは体幹とバランスに影響を与える姿勢を示さなければならない。難しいエントリーの姿勢(難しい入り方)は、両パートナーがエントリーカーブに乗っており、女性および/または男性がただちに遅れることなく難しいエントリーの姿勢からデススパイラルの姿勢へ移っている間に行わなくてはならない。
難しいイグジットの一例:女性がリフト(ダンスなど)やジャンプへの一連の流れと同時に直ちに出る。イグジットはデススパイラルの実施のコントロールとバランスに大きな影響を与えなければならない。 ※エントリーの特徴は、男性のトウが氷上に固定されたのち、最初の1回転以内に両パートナーが低い姿勢に達した場合にのみ与えられる。難しいエントリーおよび/またはイグジットは1つの特徴であり、どちらか一方のみがレベルの特徴としてカウントされる。
無得点または最大でもレベル1となる要素
上記の解説の後、30ページから無得点やレベル1になってしまう条件が記載されていますので、こちらも訳しました。
最大レベル SP | 問題点 | 最大レベル FS |
---|---|---|
無得点 | 男性が膝を明確に曲げて腕を伸ばしたピボットの姿勢が1回転続かない。 | 無得点 |
1 | 男性と女性同時の「低い」姿勢が1回転続かない。 | 1 |
無得点 | 女性の頭が自身のスケーティングしている足の膝の高さに一度も達しない。 | 無得点 |
演技を見返してみた感想
ユーロ2024で特にデススパイラルのレベルが気になった組は、イタリアのレベッカ・ギラルディ(Rebecca GHILARDI)/フィリッポ・アンブロジーニ(Filippo AMBROSINI)組のショートプログラム。
グランプリシリーズでは、初戦のカップオブチャイナはレベル4、2戦目のNHK杯とグランプリファイナルはレベル3が取れていました。
ところがユーロ2024ではレベル1となっていました。
レベル4だったカップオブチャイナとレベル1だったユーロのデススパイラルを切り取って0.75倍速にしてみました。
(ユーロはカメラアングルが途中で上からになってしまい見づらいですが…)
見比べてみると、ユーロの演技は女性の腰と頭が明らかに高いです。男性の膝もあまり曲がっておらず、臀部と膝が同じくらいの高さか臀部の方が高いように見えます。
他の組のレベルについても大まかに比較してみても、他の試合より大幅にレベルが下がっていたわけではなかったです。
なので、ユーロのレベル判定が特別厳しかったわけではないのだとわかりました。
結局何が言いたいかというと、デススパイラルでレベル4を取るのってすごく難しいんだな~、それを簡単そうにやってのける組は本当にトップの一握りの組なんだな~、という素人の感想です!
ペア面白い!!!